外壁の補修は、たいてい何かが起きてから始まります。雨漏りした、タイルが落ちた、ひび割れが目立ってきた。
ところがひとつだけ、何も起きていなくても期日が来る調査があります。建築基準法12条の定期報告で求められる、外壁の全面打診です。
管理会社や所有者の方から「今年から全面打診が要ると言われた」というご相談を受けることが増えたので、対象・時期・方法を整理しておきます。
何が求められているのか
定期報告そのものは、対象の建物なら数年に一度、ずっと続いています。外壁については、手の届く範囲を打診し、それ以外は目視というのが通常の調査です。
これが10年目に一度だけ、扱いが変わります。
タイル張り・石貼り(乾式工法を除く)・モルタル塗りといった外壁について、竣工または外壁の改修から10年を超えている場合、その後の最初の定期調査で、手の届かない高さも含めた「全面打診等」を行うことになっています。
つまり、
- 普段の調査 … 届く範囲だけ打診+あとは目視
- 10年目の調査 … 壁の全面を打診
という違いです。ここで初めて、建物の上のほうまで人が到達する必要が出てきます。 費用が跳ね上がるのはこのためです。
なお、直前3年以内に全面打診等を済ませている場合や、落下防止の措置が講じられている場合は、扱いが変わります。自分の建物がどれに当たるかは、最後は特定行政庁の判断になります。
対象になる建物・ならない建物
まず、外壁の仕上げで決まります。
| 外壁 | 全面打診の対象 |
|---|---|
| タイル張り | 対象 |
| 石貼り(湿式) | 対象 |
| モルタル塗り | 対象 |
| 石貼り(乾式工法) | 対象外 |
| 金属パネル・ALCの塗装仕上げなど | 対象外(貼り物ではないため) |
タイルやモルタルが対象なのは、下地から剥がれて落ちるからです。打診は、その「浮き」を音の違いで拾う方法です。
そのうえで、その建物が定期報告の対象建築物になっているかという条件が重なります。用途と規模で決まり、これは自治体ごとに指定内容が違います。マンション、テナントビル、店舗、ホテル、病院、学校などが典型です。
「うちは対象か」を最初に確かめる先は、建物のある市の建築指導課です。 神戸市内であれば神戸市に指定の一覧があります。
いつ来るのか
数え方は単純です。
竣工、または前回の外壁改修から10年。 その後、最初に回ってくる定期報告のときです。
ここで見落としが起きやすいのが、**「前回の外壁改修から」**のほうです。大規模修繕で外壁を全面的にやり直していれば、そこが起点になります。逆に、部分補修しかしていない建物は、竣工から数えたままです。
築11年、12年で初めて言われて慌てる、というのは珍しくありません。報告の年が分かっているなら、その前年に見積を取っておくのが安全です。 全面打診は1日では終わらないことが多く、報告期限の直前に業者を探すと、選択肢が値段の高いほうに寄ります。
方法によって費用が変わる
全面打診で最も費用を左右するのは、調査そのものではなく、壁のどこにでも人が到達するための手段です。選択肢は4つあります。
| 方法 | 向いている場面 | コストへの影響 |
|---|---|---|
| 足場 | 打診と同時に大規模改修も行う | 仮設だけで数百万円になることがある |
| ゴンドラ | 屋上に常設ゴンドラがある建物 | 設備があれば安い。無ければ設置費が要る |
| 高所作業車 | 前面道路が広く、低層 | 道路使用許可と交通誘導が要る |
| ロープアクセス(無足場) | 調査だけを単独で行う | 仮設が要らない。翌日から始められる |
「調査だけをしたい」なら、足場を組むのは費用の使い方として重い。 足場は本来、そのあと人が長く上り下りして工事をするための設備です。音を聞いて回るだけのために組むと、費用の大半が仮設に消えます。
一般に、足場代は工事費のおよそ3割と言われます。調査単独ならその比率はもっと上がります。
橙會がロープアクセスを選んでいる理由はここです。屋上から降りて壁を全面叩き、終わったら何も残さずに引き上げる。 調査という仕事の形に、いちばん素直に合います。
反対に、打診と一緒に大規模改修まで行うと決まっているなら、足場を組んだほうが安く早く終わります。 これは正直に申し上げます。判断の分かれ目は「調査だけか、工事まで続くか」です。
打診の結果は、そのまま補修の見積になる
全面打診をすると、浮きの位置と面積が図面に落ちます。
この時点で、次に必要な工事の輪郭が出ます。浮きが数か所に散っているだけなら部分補修で済み、面で広がっているなら改修計画の話になります。調査は、次の予算を決めるための材料です。
ロープアクセスの利点がもうひとつあるのはここで、叩いて浮きが見つかった箇所を、同じ体制でそのまま補修できます。 小規模なら、調査と補修を分けて2回発注する必要がありません。
橙會がやること、やらないこと
ひとつ、はっきりさせておきます。
定期報告に伴う調査は、一級建築士・二級建築士、または特定建築物調査員の資格を持つ人が行い、報告書を作成することになっています。壁を叩ける、というだけでは完結しません。
橙會には現在その資格者がいないため、報告書までを含む法定調査はお受けしていません。 これは今後の課題として考えています。
やっているのは、その手前と、その先です。
- 手前 … 「浮きがどれくらいあるか、まず知りたい」という段階の打診。この場合、法定の報告書は付きません
- その先 … 調査で浮きが見つかったあとの補修。 ピンニング、モルタル欠損の補修、シーリングの打ち替え
ここがロープアクセスの効くところで、叩いて見つかった箇所を、同じ体制でそのまま直せます。 調査会社と補修業者を別々に手配して、足場やゴンドラを二度用意する必要がありません。
すでに他社の調査報告書をお持ちで、「浮きが◯箇所」と出ている状態からのご相談が、いちばん話が早いです。
まとめ
- 対象はタイル・石貼り(湿式)・モルタルの外壁を持つ、定期報告対象の建物
- 時期は竣工または外壁改修から10年を超えた、最初の定期調査
- 費用を決めるのは調査ではなく、壁に到達する手段
- 調査だけなら無足場(ロープアクセス)、工事まで続くなら足場
- 報告書には有資格者が要る(橙會は現在お受けしていません)
- 橙會がやるのは、手前の打診と、浮きが見つかったあとの補修
調査報告書が出てきて、「浮きが何箇所あるので直してください」と言われた段階からで構いません。 建物の高さ・外壁の仕上げ・浮きの箇所数が分かれば、おおよその見当はお伝えできます。